読書感想「23分間の奇跡 」
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たぶん、とても有名な本。1988年に日本で第1版が出版されている。今更かもしれないけれど、わたしは初めて読んだ。
「茶色の朝」という本を調べている時、この本も表示されてタイトルだけは知っていたが読んだことがなかったと思って、同時に買った。 役者の青島幸男さんの「あとがき」から一部抜粋する。
物語は午前九時に始まり、九時二十三分に終る。一つの国が敗れ、占領され、教室に新しい教師がやってくる。そのクラスでの二十三分間のできごとがこれである。
この「あとがき」通り、23分間だけを描いた短編である。
最初、どんな先生が教室にやってくるのか、子どもたちは不安がいっぱいで怯えている。
そんな中、新しい先生が教室に入り、23分で見事に子どもたちの受け止め方、考え方がガラリと変わる様子が描かれる。
洗脳の一つの方法と見ることが可能だろう。
カリスマ教師の振る舞いや考え方としても見ることが可能かもしれない。
4月、新年度での子どもたちの出会いをどのように工夫し、演出し、子どもたちの心をつかむかと心配している先生たちへのヒントとしても使えそうなところが垣間見える。
「あとがき」を書いた青島幸男さん的には、太平洋戦争前後の日本の姿、本の前までは「敵」だった米国人に対し、「ギブ・ミー・チョコレート」と群がり、米国人大好きになる戦後民主主義の日本の姿に大いに重なるようだ。確かに、アメとムチで考えるのならば、ムチで心を縛るのではなく、アメで心を解放しようとする部分と大いにかさなるところがある。 この本が素晴らしく、しかし、待てよ、本当にそれでいいのか?と考えさせられるのは、恐怖によって子どもたちを支配、掌握、管理(コントロール)するのではないところである。
何しろ、ここに登場する「新しい先生」は、前の先生の「古い価値観」を子どもたちが納得する説明や事実を例にやんわりと否定し、これからはこちらのほうがいいのではないかと「子どもに寄り添った目線」で対応、提案するのだから。
この本では、「人間(特に子ども)の心、考え方を変えるのはとても簡単なこと」というメッセージを発しているように見えるが、教育界お得意の「教育改革」に目を向けてみると、スローガンは威勢がいいものの、結局は変わっていかない内実などを見ると、「狭い空間」だけの話なのだろうか……とも見えてくる。
もう少し時間をかけて考えてみたい。
【追記】
わたしのFacebookコメント欄に池田修さんからこの本の映像化とも言えるべき情報を教えてもらいました。 早速見てみました。「世にも奇妙な物語」で賀来千香子さんが「新しい先生」の役で出演しているのですね。本に書いてあるとおり、鮮やかな緑の洋服に身を包んでいるのが印象的です。 テレビは、民主主義・自由主義から独裁へ進むような感じの「洗脳」でしたが、(洗脳ありきという観点で本を読んでいく場合)本は、どちらかというと、「独裁」から「民主主義」への「洗脳」のように読めます。
・質問を認めない教室に疑問を新しい先生が疑問を投げかけ、これからはどんどん質問してねと促す。
・意味を教えずにスローガンを暗唱してきたことへ疑問を投げかけ、しっかりと意味を理解することが大切でしょと伝える
……。
本を読んで、テレビを見ると、上手く映像化しているなぁという反面、ちょっと本の内容とどこか違和感、気持ち悪いぞ……と思うのですが、上の部分なのだと発見しました。
「独裁」と「洗脳」はなんだか、つながりやすいのでわかりやすいですが、「民主主義」への「洗脳」はなかなか繋がりにくい部分、わかりにくい部分がありますよね。(あっ、これ、わたしの解釈ですけど)。
(国旗を刻んでしまう場面などは……民主主義的な考えなのか……と言われると上手く答えられませんが……f^_^;)
そういう意味で、この本は、短編ですけど、深いなぁと思うわけです。